メインとなる国道沿いではないが、曜日に関わらず車が混み合う道の側に店はある。車でも近くを通るだけで、自然と看板が目に入る。今年で4年目を迎え、秋からランチ以外は完全予約制へと進化を遂げる現代風イタリア料理店の「poesia(ポエシア)」。 オーナーシェフ木津真人氏(41歳)が目指す、100%の料理を提供したいという想いから、夜間の営業はコース予約のみという勝負に出る。poesiaとはイタリア語で“詩”という意味を持つ。同店のコース料理には、木津氏が表現したいメッセージが込められているのだ。
お店のすぐ目の前には勝浦川が広がり、夜は季節を感じさせる舟漁の明かりが瞬く。そして、シンボルツリーのけやきは、暗くなるとイルミネーションで彩られる。移り変わる季節の美しいロケーションとともに、料理を演出している。同店で、とにかく大切にしていることが季節感。オープン以来ずっと、食材同士の味を引き出す組み合わせや食感にこだわり続けている。木津氏は、これまでフランス料理やイタリア料理のお店などでシェフを務め、独立。料理歴は21年、人生の半分を料理に捧げている。オープンして2年半経った頃、客が離れてしまうのではないかという迷いはあったが、単品メニューをやめコースのみにした。SNSでの発信や、イベント企画で、訪れるお客さんへの特別感を演出する工夫も行った。結果、他店との差別化を図ることもでき、常連客も次第に増えてきた。今では、同店の味と演出を求めて、幅広い年代のお客さんが足を運ぶ。
ディナーは、「カジュアルディナー」(2,800円)のほか、5,600円、7,600円、10,000円の3種のコースから選ぶことができる。5,600円以上のコースでは、日々異なるメニューがお皿に色を添える。素材単体で美味しいものも素晴らしいが、素材と素材を組み合わせることで初めて生まれる新しい発見が、木津氏の料理の醍醐味だ。「レシピをとると頼ってしまうから、取らないんです」という言葉からは、細やかな調理テクニックやこれまでの努力がうかがえる。調理をしている時間以外も、常に素材の組み合わせのことを考えている。どんなときも忘れないよう、記録したメモ帳は、素材の組合せのアイデアでビッシリだ。現代風イタリア料理と謳っているが、求める味に必要だと感じれば、出汁をとることもある。思い通りの味になるまで、試行錯誤を繰り返し、メニューを決定するのだ。
「素材同士の組み合わせで、この素材がここまで引き立つんだ、という驚きを料理から感じて欲しい」という木津氏の思いがここにある。これからも、特別な日に大切な人と過ごしたいと選んでもらえるお店を目指す。お客さんの笑顔に応え続けるため、突き抜けるような美味しさを求めて、今日もまた素材の組み合わせへと思いを巡らせる。素材を超える新たな価値を生み出す木津氏の挑戦はこれからも続く。
(取材=山本 菜保(やまもと なお))