2018年4月、徳島駅地下は徳島駅バル横丁へと生まれ変わった。7月のグランドオープンに先駆け、4月24日に「酒とめし 酒場ダン」を含む3店舗が先行オープンし、注目を集めている。地下へのエスカレーターを降りて行くと、一気にバルの雰囲気へとチェンジ。同店は、地下行きのエスカレーターを降りてすぐ左手に位置する。店舗に大きな暖簾がかかり、メニューボードが置かれると、前を通る人たちが次々と足を止める。そして、吸い込まれるように暖簾をくぐっていく。店は、秋田町で「WINE BISTRO eats(ワイン ビストロ イーツ)」を運営するARC(アーク)が経営する。
店内に足を踏み入れると、コの字型のカウンターから料理長らが威勢の良い声で出迎えてくれる。落ち着いた色合いで昭和レトロな雰囲気を漂わせるも、タイルの色や木目など細部までこだわりを感じる。店内の木材はすべて高知県産の杉をふんだんに使用し、あえて節が入った木材をチョイスするなど、温かみのある雰囲気を演出している。これらはすべて、東京の繁盛店「大衆酒場 BEETLE(ビートル)」や「酒場 シナトラ」を手がけた商業・店舗デザイナーであるKLC Kanmei Office 代表取締役の矢野寛明氏がデザインしたものだ。「約4年前から駅周辺の出店を考え、店舗を探していた」と話すARCの代表取締役 米澤正氏。同社は、徳島の飲み屋街ともいえる秋田町を中心に飲食店を展開し、25年になる。これまで、ライブハウスやボトルバー、デザイナーズ居酒屋など、徳島の数々の飲食ブームを牽引してきた存在だ。駅から0分という駅地下に誕生したバル横丁を新拠点とし、挑戦することを決めてから、米澤氏は矢野氏と共に古い蕎麦屋や下町の酒場などに出向いた。「元々、生業として街に機能して愛されてきた酒場という業態を、今の時代の感性で解釈するとどうなるだろう」と模索。「大衆酒場価格だけれど、本格料理が味わえる。自分たちの世代が青春時代を過ごしたように、どこか懐かしく、何度も足を運んでもらえる活気に溢れた店にしたい」という米澤氏の想いを矢野氏と共にカタチにした。例えば、「正一合の店」という、昔の酒場の看板によく見かけたこの言葉。正しく徳利に一合入っているというアピールだが、今は正一合入る徳利は少ない。いつの頃からか、0.8合程度しか入らない徳利を使用することが当たり前になっている。同店では、ちゃんと一合入る徳利を探しあて、酒を提供する。元々あった良い風習は現代に蘇らせ、今だからできる合理性や感性と融合させていく。長く付き合っていただけるような店にするために、メニューにも店の作りにも、時代や世代を越えた誠実な想いがこめられている。
当初、カウンター周りとその周りにテーブルを配置したスペースのみで営業をする予定にしていた。しかし、「大人数でも入ることができるように」という客サイドの要望に応えて、全80席の店舗へと拡大。奥は、団体予約にも対応可能なスペースを確保した。プライベートでもお酒を楽しむという米澤氏は、カウンター席をこよなく愛する。コの字カウンターの奥には、テーブル型のカウンター席を設けた。すぐに注文することができるだけでなく、料理人との会話を楽しむことができるのもカウンター席の魅力の一つ。テーブル席を選びがちな徳島の人たちにも、カウンター越しで、調理している姿や包丁さばきなどのライブ感を味わってもらうことが狙いだ。
カウンター上の壁には、スタッフたちが手書きした味のあるメニュー札が並ぶ。驚くほどリーズナブルなメニューも多く、ほとんどが地元食材中心の料理。独自の低温調理法で甘みや旨味を引き出した肉刺しの「ランプ(ももの肉)」(税抜650円)、「マクラ(前脚のスネ肉)」(税抜520円)、「イチボ(おしりの肉)」(税抜680円)、「タン」(税抜480円)や、阿波黒毛和牛を使用した「上ミノ湯引き おろしポン酢」(税抜580円)、「センマイごま塩だれ和え」(税抜540円)、「上ロース3秒炙り」(税抜760円)など、県内屈指の精肉店が直営農場で育てたこだわり肉を厳選して使用しており、どれも自信作。また、名物の「肉豆富」(税抜540円)は、「煮玉子」(税抜100円)とセットで注文したい。酒の肴としても、ごはんのお供としてもオススメの一品だ。そして、幅広い種類のこだわりドリンクの中でも、力を入れるのはサワー各種。レモンサワーだけで4種ある。レモンをぶつ切りにして凍らしたものを加えた「最強レモンサワー」(税抜550円・おかわり税抜200円)、生レモンを使ったフレッシュな「擦りおろしレモンサワー」(税抜500円)など、一度は味わってみたいラインナップ。その日に獲れた新鮮な魚を調理した料理もいただける。コンセプトはバルだが、昼食時刻はお酒はもちろん、好きなメニューに「ごはんセット(ごはん、味噌汁、小鉢、漬物付)」(税抜300円)を加えて、オリジナルの定食としていただくのも粋だ。
電車の出発時刻に間に合うギリギリまで雰囲気を楽しみ、慌てて走っていくお客さんがいるのも駅地下ならではの光景だ。年配の方にとっては懐かしく、若い方にとっては斬新なデザインとして、幅広い層をターゲットにしている。仕切りを極力とっぱらったことで生まれる、新たなコミュニケーションをお客さん同士に楽しんでもらえるような店づくりを目指す。子ども連れもOKという(昼は禁煙、夜は喫煙)。これまで、流行とともに進化し続ける酒場の旬スタイルを提供し続けてきたARC。70〜80年代の昭和感を味うことができる昔ならではの趣向へと原点回帰している酒場業界のトレンドを徳島に、という米澤氏の駅地下での挑戦。時期をみて、この酒場スタイルを秋田町へ持ち込むことも視野に入れた新生ダンの今後が楽しみである。
(取材=山本 菜保(やまもと なお))
店舗データ
店名 | 酒とめし 酒場ダン |
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住所 | 徳島市寺島本町西1−61 徳島駅クレメントプラザB1 徳島駅バル横丁 |
アクセス | 高徳線 徳島駅から徒歩0分 |
電話 | 088−656−0021 |
営業時間 | 11:00~23:00(ラストオーダー 22:30) |
定休日 | 徳島駅クレメントプラザに準ずる |
坪数客数 | 80席 |
客単価 | 2000円〜 |
運営会社 | 株式会社ARC |
オープン日 | 2018年4月24日 |
関連リンク | HP |