神山町の中心部に位置する道の駅「温泉の里 神山」手前、「神山温泉」に向かう道沿いに昭和レトロな佇まいが印象的な建物がある。これが、2012年に誕生した「粟カフェ」だ。オーナーは、兵庫県西宮市出身で2010年に神山町に移住した中山竜二氏(神山梅屋・粟カフェ 代表)。当時はお店をオープンする予定すらなかった中山氏が、前オーナーから建物を譲り受けたことから始まった。神山町中心部の入り口として、「この場所でするならカフェだろう」と、オープンを決意。郊外にも関わらず、多くの観光客を迎える店舗になっている。
中山氏と神山町との出会いは、2008年に遡る。当時、香川県高松市でサラリーマンをしていた頃、「このままサラリーマンを続けて老後を迎えるよりも、どこか古民家で暮らしたい」という思いが日増しに強まり、小豆島を移住先として考えていた矢先のことだった。支店先で読んだ新聞の神山町特集に、なぜか惹かれるものがあり、神山町のことを調べていくうちに、売りに出ていた古民家に出会う。まだ買い手がついていなかった縁もあり、購入することを決めた。「転勤族だったこともあって、地に足をつけた生き方に憧れがあったのかも」と当時を振り返って笑う。これが中山氏を神山町へ導くきっかけになった。
移住後すぐは、「何か町のためにできることはないか」と、神山の特産品である梅の加工品を製造販売した。地元の加工所のお母さんたちを巻き込んで作ったのは、梅を使った「神山ドレッシング」や梅50個の果汁が詰まった「梅エキス」。土産品としても道の駅や空港でも販売されている。ギフトにもなるようパッケージもオシャレにこだわった。さらに、購入してもらうことで、徳島の森を守る基金としてあてられている。いつかは、神山の森をキレイにする活動に繋げ、昔のような豊かな森の維持を目指している。神山ドレッシングは年間1500本、梅エキスは200本をも売り上げる。
移住して1年過ぎた頃、前オーナーから店をやらないかと話をもらい、そば屋だった現物件をカフェへと変貌させた。中山氏の奥さんが調理師免許を持っていたこともあり、オープンしてすぐの頃は、そばと並行してカレーを提供。週がわりのランチを始めたころから、主力はランチメニューへと移行した。主食が玄米というのは、オープン時からのこだわりだ。神山町には美しい棚田があることで有名だが、棚田独特の景観は大きな機械が入れない。そのため、米を収穫するのは大変にも関わらず、美しい景観は農家さんたちが維持してくれている。後継者不足や高齢化もあり、耕作放棄地が増えているのも喫緊の課題だ。神山町で作った玄米を食べてもらうことで、棚田の維持に少しでも貢献できればという中山氏の強い想いが込められている。圧力釜で炊いた玄米はふっくら、もちもちとした食感が特徴で、同店のカレーは、玄米に合うように作られている。「古代米入り玄米のキーマカレー」(780円)はもちろん、「週がわりランチ」(780円)、「カレーうどんとあと入れごはん」(700円)、「ハーフキーマカレーとケーキ」のセット」(600円+ケーキ代)のすべてで玄米がいただける。玄米が苦手な子どものために、「キッズキーマカレー(白いごはん)ヤクルト付」(500円)も用意している。
また、同店では、徳島スイーツグランプリで受賞歴を持つ「神山美人ケーキ」(500円~)のケーキが食べられる店として多くの女性ファンを持つことも強みのひとつ。天候に左右されるが、桜や紅葉のシーズンは1日100~150人ものお客さんで渋滞になるほどだ。観光客が8割を占めるため、リピーターを増やすため、神山町の文化や歴史、町巡りを楽しめるまち歩きマップを作るなど、積極的に活動をしている。定期的にワークショップやイベントの開催にも力を入れる。また訪れたいと思えるように、町の魅力を情報発信する場所として、これからの展開が楽しみだ。
(取材=山本菜保(やまもと なお))
店舗データ
店名 | 粟カフェ(あわかふぇ) |
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住所 | 徳島県名西郡神山町神領本上角118-1 |
電話 | 050-2024-2062 |
営業時間 | 11:00~夕方 |
定休日 | 木曜・金曜休 |
坪数客数 | 21席(貸切 20人以下可) |
客単価 | 999円~ |
オープン日 | 2012年2月11日 |
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