徳島市にある中小企業「小林ゴールドエッグ」は自社で養鶏場を持たない”卵”の販売会社である。創業して50年。卵のおいしさを追求した結果、たどり着いた答え、それは「料理を活かす」たまごの販売である。現在、万能な食材である卵をあえて料理別に76種に分けて料理人に提案している。
代表を務める小林真作氏は3代目社長、大学で高分子物理学を専攻し大手醸造酢メーカーで商品開発、研究所に5年勤めていた。先代の他界を機に徳島へ戻り入社。社長に就任した。当時は卵の事を何も知らない社長であったが、先代が既に構築した体制は、不慣れな社長がトップにいても当面の業務として問題なく機能した。社長がいなくても安定した経営が続く社内において、組織化、体系化されていく会社。先代への感謝の気持ちは湧くものの自分の仕事はなかった。自分に出来る事が何なのかを日々考え、実践する中で、研究員時代のノウハウを活かした「商品開発」に行き着く事になる。小林氏は”黄身が盛り上がっている卵であれば、美味しいと言えるのか”という「卵の謎」に挑んでいた。
「黄身の盛り上がり、殻の硬さ、見た目の良さ、黄身の色、香り、付加栄養素。これらは当然重要な要素ですが、あくまで”生産視点の管理上のこだわり”であって、”だから美味しいですよ”と伝える要素ではありません。本当にお伝えしなくてはならない価値はそのもっと上にあります。例えば、生で食べたときの濃厚さ、醤油との相性、ごはんとの絡み具合が抜群であること、加熱した際の物理特性がとても優れていること。ケーキを焼いた際の素敵な香り。こういった、”食べる瞬間”の事を最も大切に考えられること、その為にこそ、様々な生産上のこだわりと管理が必要になってくると思っています。 なので、我々のコンセプトでは”料理になった瞬間最も美味しくなるたまごが、『おいしいたまご』である。”と定義しています。」
小林氏を中心に試食試験を繰り返していく中で、その思いが形になり、現在は49種類の業務用、27種類の家庭用卵商品を完成させている。
「1個の卵ですべての料理に合う卵は無い。つまり料理によって、最高の美味しさを引き出せる卵は違う」それはワインと料理の相性がある様に、卵も「生産地」「飼い方」「飼料」「大きさ」「生産者のこだわり」「母鶏」とファクターで『おいしい』料理は違うのだ。生産者視点のこだわりから、消費者視点のこだわりへ方向を変え、卵は多用途、価格競争は必須という世界から、限定感、価値競争への世界を見出し日本初の「たまごかけごはん専用たまご」を商品化した。
「たまごかけごはん専用たまご」の発明は小林社長の商品開発力だけではない。社員から聞いた現場の情報も確信へと近づけた。「弊社のベテランの営業配達員が伝えてくれたのが、料理人の方々からのご感想、ご要望でした。”こんな風味の卵が和食には合う。”とか、”こういう卵がウチのケーキにはピッタリだ。””今度の卵はお店の料理に合う”といった貴重なご意見でした。それに合わせて農場や鶏種、サイズなどを選んでお持ちしておりました。」
「たまごかけごはん専用たまご」は発売後すぐ大ヒットとはならなっかたが、少しずつ売上は伸び、リピートの高い商品になった。日本人がお茶碗にごはんを入れる量はほぼ160g、「最も良く合う」を追求した結果、やや小ぶりな、54~63g前後の卵が最適であり、このサイズの卵は比較的若い鶏が産む少量に限られた。さらに卵の追求はしていく中で、めだまやき専用、ゆでたまご専用、たまごやき専用、親子丼・カツとじ専用、オムレツ専用、温泉卵専用、カルボナーラ専用、ピカタ・天ぷら専用、ケーキ・お菓子専用などの開発も進んだ。
「料理店が儲かったら、卵屋も儲かる」という考えのもと、現在は料理のレシピ開発、繁盛するお店つくりの為セミナーの開催も実施している。小林氏の卵に対する情熱が料理を作る方へと伝わり、顧客の創出に繋がっている。販売先は徳島県内70%、県外30%。目指すはさらなる超地産地消だ。それは結果、卵の鮮度もあがる事に繋がる。
窓の無いウインドウレス鶏舎が世界的に規制され減少していく中、四国の徳島において、放し飼いや自然を活かし飼育している鶏の料理別卵、小林ゴールドエッグの取り組みはこれからの食材の標準となりえるだろう。
(取材=敏鎌 栄祐)
店舗データ
店名 | 株式会社 小林ゴールドエッグ |
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住所 | 徳島県徳島市国府町日開113番地 |
電話 | 088-642-6711 |
関連リンク | 株式会社小林ゴールドエッグ |