徳島県南部に位置する美波町。アクセスが非常に悪い土地でもあるが、豊富な観光資源を作り上げた町としても広く知られている。アカウミガメの産卵地としては世界的にも知られており、室戸阿南海岸国定公園でもある海岸ではウミガメの産卵期になると多くの観光客で町が賑わう。町はウミガメの産卵を地域おこしの一環と捉え、2009年には美波町が舞台となる連続テレビ小説、「ウェルかめ」も放映され、更に多くの観光客が押し寄せるようになった。元々漁村地帯であるこの地域は海の幸の宝庫であり、伊勢エビや鮑といった高級な海産物が漁港に賑わいをもたらす。時期になると「鮑祭り」や「伊勢エビ祭り」が開催され、この祭りでは1万人以上の観光客がやってくる。また「観光に成功しても定住する者が増えない」という地方の観光地にありがちな問題にも「漁村留学」という取り組みで解決の方向へと向かわせている。これは、町が居住地を準備し、県外から家族ごと移住出来るような仕組みであり、取り組み以降人口を130%増加させている。まだまだ小さな灯火であるが非常に大きなポテンシャル秘めた美波町。そしてこの町の東端に、三方を山で囲まれた小さな漁村集落、伊座利がある。
「イザリCafe」は6年前にオープン。オーナーは伊座利の住民全員であるというコンセプトのもと、厨房では現在「漁港のおばちゃん」達が運営を任されている。ちなみに彼女達のほとんどが漁師の奥様である。「将来は移住者や次世代の働く場として提供して行きたい。でもまだまだ移住者が少ないですね。おばちゃん達にはもう一踏ん張りしてもらわねばなりません。」伊座利推進協議会の会長でもある坂口氏は語る。「20年前から行っている町おこしの一環としてカフェの企画が立ち上がりました。感度の高い県外からの観光客の皆さんが魅力的に思うカフェとは何なんだろう?と試行錯誤した結果、オープンまでに5年の歳月が掛かってしまいました。カフェなんて普段行かないような年配者で企画したので本当に大変でしたよ。カフェより喫茶店世代ですからね。しかし最近では全国放送のテレビでも定期的に取り上げて頂くようになり、ようやく若い人達にも受け入れられてきました。」
ジャズが流れる店内は黒を基調とした落ち着いた内装。カフェという名前から察するにランチプレート等をイメージするがメニューはほぼ定食での提供となっている。「ジャンボ海老フライ定食」(1600円)「刺身定食」(900円)「天ぷら定食」(900円)が人気のメニューである他、時期に応じて伊勢エビ(冬)、鮑(夏)の単品メニューも提供する。勿論、店で使用する魚は全てその日の朝に伊座利沖で穫れたもの。注文が入るたびにカフェ前にある漁港におばちゃんが大声で食材を持ってくるよう漁師に依頼する。その瞬間はカフェから一気に大衆食堂に来た感覚におそわれるが、店内の客はその様子を微笑ましく見つめている。客単価は1000〜1500円。客数は平日で20〜30名、殆ど地元の住民である。しかし休日にもなれば一転、200人以上が来店し2時間待ちの状態となる。カフェは住民のたまり場であり、いわばコミュニティカフェの側面もありながら、休日は多くの観光客を受け入れる体制を構築している。またカフェの二階はコンドミニアムとしても開放しており、長期滞在も可能となっている。「観光客が増える事で、ゴミ問題や交通渋滞といった町に及ぼすリスクもあります。けれど住民の方々もこのカフェに対して愛情を持ってくれています。町にやってくる観光客の方々とも常にコミュニケーションを取ってくれています。厨房はおばちゃん、サービスは町民の皆さんといった具合です。」と笑顔で語る坂口氏。
自然や動物、カフェや料理だけでなく、人までもが観光資源となった伊座利。そして全国から注目を浴びる、町のアンテナショプ「イザリCafe」では、坂口氏の言う「住民全員がサービスマン」の意識のもと、カフェに来た客だけでなく、町にいる観光客全てに対して「おもてなし」を実践している。都心部では到底真似の出来ないスタイルが地方にはある。「イザリCafe」また美波町の今後の取り組みに是非注目したい。
(取材=池添 翔太)
店舗データ
店名 | イザリCafe |
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住所 | 徳島県海部郡美波町伊座利 |
アクセス | 県道28号線 伊座利漁港の隣 |
電話 | 0884-78-1186 |
営業時間 | 10:00~15:00 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は営業) |
坪数客数 | 30席 |
客単価 | 1000〜1500円 |