香川県高松市北浜町にある「北浜alley」は瀬戸内海に面した港の古い倉庫街を活用した複合商業施設である。「倉庫の現姿を残す」「商業施設としての再生」「文化的情報の発信」という3つのコンセプトの元、2001年に地権者であるJA香川県と井上商環境株式会社の一級建築士、井上秀美氏と井上雅子氏が手掛けている。現在ではギャラリー、ブティック、カフェレストラン、雑貨店など18店舗が入居しており、高松のトレンドスポットとしてその位置を確立している。平日は港のゆったりとした雰囲気の中、若者から主婦層の人々が思い思いに時間を過ごし、休日は親子連れを中心に県内外からの観光客が集まり賑わいをもたらしている。
倉庫街の最北にカジュアルレストラン「Cantina」(カンティーナ)が店を構えている。「北浜alley」オープン時より展開している人気店だ。オーナーの渡邉氏は「Cantina」のスタッフ出身であり、3年前に前オーナーより店を引き継いでいる。店自体はオープンして10年以上経っているが、倉庫街の雰囲気に合わせて店の内装外装は全く変えていない。大きく変わったのは提供スタイルと営業時間だ。以前は若者をターゲットとし、深夜営業をメインに打ち出していた。ただ当時より「北浜alley」には年配客や主婦客が多く来客しており、また近隣には企業ビルも多く、サラリーマンやOLの多くが気分転換に倉庫街を闊歩する姿も見受けられていた。そこで「北浜alley」の客層に合わせてランチタイムの後にティータイム営業を開始。店内では主婦達の会話が飛び交う中、老夫婦がゆっくりランチを楽しみ、その脇では仕事の打ち合わせをするビジネスマンも現れ、結果的に幅広い世代が来客するようになる。勿論、客層に合わせてメニュー数も増やした。特にドリンクは現在で400種類にまで及んでいる。またランチタイムの客単価は1000円、ディナータイムの客単価も2000円~3000円と非常にリーズナブルな価格帯も合わせて集客を生み出している。
「お客様のニーズに応え続けていた結果です。店や店主の色を先に出すのではなく、この土地に住んでいる人々や、わざわざ北浜に遊びにきてくれるお客様の目線に合わせてサービスを変えていきました。誰でも気軽にカジュアルに来れる店作りが私のスタンスです。これからもその取り組みは変わりません。」と語る渡邉氏。経営者になったこの3年間、客からのヒアリングに最も時間を割いてきた。地方においても、町や住民のウィークポイントを抑える事は都心部の飲食エリアと変わらないのだ。ちなみに最近ではレストランウエディングの依頼も増えてきており、今後の展開としてはブライダルにも力を入れていくようだ。
高松市の中心部に位置しながらも、まちなかの喧噪な雰囲気とは違い、ゆったりとした時間の流れるエリア「北浜alley」。この小さな港町で「Cantina」が目指したものは、各シーンに合わせたサービスと空間である。変えるべきものと変わってはいけないもの、その重要性を自ら体現、発信していく渡邉氏の今後の展開に注目したい。
(取材=池添 翔太)